ボクは桜、キミは唄う
昨日の事を思い出すとまた苦しくなる。

桜の木を見上げて気持ちを落ち着かせると、

「練習、練習」

雑念振り払って、楽譜を立てた。

その時

キューッ。

音楽室の重い扉が開いて、さっき聞いたばかりのおまじないが再び私の耳に届く。

本当に別世界に飛んで来ちゃったのかな。

ドアの方に目をやると、いるはずのない人がそこにいた。

私の胸がドクンと飛び上がる。

「はぁ、はぁ」

息を切らした柚木君が、鞄を持ったままドアの側に立ち、私を見ていた。

「はぁ、はぁ、これ」

そして、小さなメモを私に向かって差し出す。

そこには

『音楽室で待ってます。楓花』

と書かれていた。
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