ボクは桜、キミは唄う
そしてもうひとつ。

「楓花、ウチワ貸して」

柚木君にとっての私が“工藤さん”から“楓花”に変わった。

「いいよ」

私は扇いでいたウチワを柚木君に手渡した。

柚木君が扇ぐウチワの風が、私と柚木君2人に降り注ぐ。

夏の匂い。

『俺と、付き合って……くれない?』

夏の匂いを嗅ぐと、あの日を思い出す。

ただどうしていいかわからず、小さく頷くだけだったあの頃の私。

あの頃から、少しは私も成長しただろうか。

さらに高くなった隣の柚木君を見上げた。

「ん?」

柚木君は優しく私を見下ろす。

その瞳を見つける度、私の胸は“きゅん”と声を上げるんだ。

「なんでもない」

首を振ると柚木君からウチワを取り、今度は私が風を送る。

「うぁ〜気持ちいー」

柚木君の髪が風に舞い上がり、おでこがペロッと見えた。

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