ボクは桜、キミは唄う
鞄からメモ帳を出すと、マジックで大きく『脱皮中』と書いて、ザリガニの水槽にペタッと貼ってみる。

これで、目覚めた時気づくかな。

それまで脱皮終わってないかな。

「えー脱皮してるの?」

突然教室に入って来たナカちゃんが叫んだ。

「ナカちゃん、おはよー」

「おはよーちょっとすごーい!柚木に教えた?見たいって言ってたじゃん」

ムクッ。

ナカちゃんの声に、柚木君が目を覚まして、起き上がった。

「柚木、あんた寝てる場合じゃないよ。脱皮脱皮。すごいって。」

「……」

柚木君はボーッとしたままナカちゃんを見て、私を見て、水槽を見た。

水槽に貼られた“脱皮中”って文字が虚しい。

やっぱり気にせず『脱皮してるよ』って、起こしてあげるべきだったかも。

「マジで?おぉすげー!」

「ね、ね、起こしてやった私に感謝しなよー。」

ナカちゃんと柚木君が2人肩を並べて水槽を覗き込むのを、私はちょっと後ろから眺める。
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