海上船内物語
「俺は、海賊が死ぬほど嫌いだ。それは間違っていない。
だがな、あれだけの剣の実力を持った化物が、手に入らないこの焦燥が堪らないんだ、分かるか?リゲ。」
じりと後ろに追い遣られるリゲの金糸を梳くアキ。
「貴様は全てが美しいな。髪も、肌も、手も、身体も」
「・・・何を言い出すのだ、お前は」
「どうせ人一人斬った事は無いのだろう?この手を汚さずに、よくも抜け抜けとこの政府の上に鎮座できるな」
どん、とアキが腹立たしそうにリゲの肩を押した。
「自分の手を汚した事もない奴に、汚す側の人間の気持ちなど、到底分かる筈も無い。」
フン、と鼻を鳴らしながらリゲを見下す。
「カイルは化物だ。一度発狂したら手に負えん。その実力を、この手で思うように、感じるままに、弄んでみたくはないか?」
アキが妖艶に嗤い、リゲを嘲笑うかのように背を向けた。
「俺は海賊を消す為に、実力がある奴が欲しい。シーザだって、カイルだって、海賊の手の内に収めるだけでは非常に勿体無い。
両刃の剣、だ。
どちらにも刃が付いていて、持っていても手を切る事になるし、相手を切る事もできる。
どうせなら、その“両刃の剣”をこの手の内に収めたいのだ」
そして、アキはリゲの耳元に顔を寄せた。
「・・・死神船が居なかったら何も出来ない、ただの負け犬。せいぜい飼い犬が手を咬むのを黙って見ていろ」
「・・・・・・アキ!!!」
憤慨したリゲが、アキを突き飛ばす。