海上船内物語
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やっぱり行ったか、とリゲは呟いた。
満更でも無さそうな笑みを溢し、美しい長髪を弄ぶ。
「何故、そんなに余裕なんですか?」
リゲの部下は、今から始まろうとする“翻弄”の序章に、体を竦めた。
「余裕などではない。これでも必死の方だ。
ただ、な・・・・・・・」
「ただ?」
海が見渡せる豪華なベランダに、風が吹きぬけた。
金糸のような細い髪が浮かぶ。
「ただ、あいつがあんなに“何か”に夢中になったことなんて、見たことがあるか?」
「死神船船長のことですか?」
「あぁ、あの仏頂面の小僧だ」
「殺されますよ、リゲ様」
長い足を組み、リゲは小さく笑った。
「あいつは、変わったからな。早々人などに手を掛けるか。手を掛けるとしたならば、怪物くらいだろうな」
妖しげにそう言えば、部下は何の事か理解していない様子で、首を傾げながらベランダから出て行った。
潮風が、金髪を揺らす。