海上船内物語
(海が、表情を変えた)
たらり、と冷や汗がカイルの体を伝う。
(波が船より高くなる、)
曇った窓にカイルは張り付いて、海をじっと見つめる。
カイルの手先は震えていた。
(早くしないと、陸に辿り着く前に、船が難破する・・・・・・!)
カイルが窓を少し開ける。
途端に入ってくる、強風。
頭が痛くなるほどの潮の匂いに顔を顰めながら、カイルは空を見上げた。
(あのときと、全く同じ空・・・・)
真っ黒で厚い雲が、空全体を覆う。
垣間見える月だけが、そこを明るくした。
(ただでさえ、夜に船を出すなんて無茶なのに・・・・・)
カイルは揺れる船の壁に摑まりながら、立ち上がった。
(どうやったら助かる・・・・・・・・・・・?
もう、港には戻れない距離だ)
カイルは少し考え、そして恐る恐る扉を開けた。