海上船内物語
「お、ちる!!」
「この間抜けが!何とか這い上がって来い!」
ぐらり、とまた船が揺れた。
海は大きく波立っていて、他の船もちらほら沈没している様子が窺える。
カイルは海に投げ出された。
悲鳴をあげながら、本能的にカイルは船体にはりついている木を掴んだ。
「・・・・・・・我が娘ながら、鈍くさいなぁ」
アランはそうぼやきながら、カイルに目もくれず、斜めの船内で、アキに襲い掛かった。
きん、と勢い良く交わる刀。
カイルは固く目を瞑った。
木を掴む手の筋肉が、震える。
海にさらけ出している下半身が、強烈な波力で持っていかれそうになる。
上で刀を交えているであろう、二人を心の底から恨んだ。
怒りを覚えながら、カイルはふと右手に感じる生暖かい感触に目を遣った。
べっとりと赤い血がついている。
驚いて声をあげそうになった途端、また強烈な波がカイルを襲う。
木にしがみついている手の筋力が限界を察し、震えている。
「・・・・・・っ、」
頭上での戦場が、先程とは比べ物にならないくらい、落ち着いていた。
その静寂がいやに奇妙で、逆に恐怖をあおらせるくらいだった。