海上船内物語
何も聞こえないのがかえって怖い。
カイルは心底そう思った。
耳に入るのは、波と雷と風の煩い音だけだった。
「・・・・・・アキ!!」
筋力と精神に底を感じ、カイルは声の限り叫んだ。
周囲を取り囲む船が、一隻、また一隻と沈んでいくのが窺える。
その船をひとつひとつ確認しながら、カイルは船員が乗ってない事を確かめた。
「?!」
と、そこでいきなりカイルの体は持ち上がった。
持ち上がる、より、引きずりあげられる、の方が正しかったかもしれない。
カイルはそのまま甲板に投げ出され、その人物を見上げた。
「・・・・アキ!!」
「まったくだ。堂々とこの船に乗り込んだかと思えば、勝手に海に落ちそうになって。
貴様はただ迷惑をかけにきただけか」
ぐらり、と船が揺れる。
波力で元の傾きに戻ったのが分かると、カイルは立ち上がった。
「アキ、生きてたんだ」
「俺が死ぬとでも思ってたのか」
次々と悪態を吐き捨てるその人物は、無傷とは言い切れない姿の、アキだった。