海上船内物語
ぎち、と白い布切れの水気をしぼる。
それを広げて、ただ固まって彼女を見ているアキの額に、布を乗せるカイル。
「・・・・・・・何してる」
「だって、アキに何かしようとしても、熱出してるんじゃ後味悪いじゃん。
だから、治すの」
はぁ?とアキの間抜けた声が部屋に響いた。
蝋燭の灯だけが頼りのなか、カイルは濡れたままの手でアキの首に触れる。
「・・・・・・冷たい」
すぐにその手を払い除け、アキは寝返りを打とうとする。
が、すぐに体勢を元に戻す。
「アキも間抜けたところあるんだね、骨折れてるのに動こうとするなんて」
「いちいち煩いな、一人にしてくれ」
「もういい、ってアキが言ったんだよ?」
カイルは立ち上がると、不敵な笑みを向けながら部屋から出て行った。
扉が閉まる。
カイルは扉に凭れ、力なくその場にへたり込んだ。
「・・・・・・良かった、・・・・・・・」
言うタイミングが無くなった。
“あのこと”を言う機会がなくなったんだ。
カイルはもう一度立ち上がり、胸を撫で下ろしながら階段を下りた。