海上船内物語


「あ」とカイルは声を漏らした。


立派な建物の門の前に、人物は立っていた。

きっちりとした衣服に身を包み、相変わらず女と見間違うほどの秀麗さは変わっていなかった。


「・・・・久しぶりだな、リゲ。珍しいじゃないか、お出迎えなんて」

「フン、減らず口は相変わらずのようだな」


さらりと靡く金髪を揺らして、リゲは建物の中に入っていった。


アキは突然カイルを抱き抱える。

品の無い声を漏らして、カイルは不機嫌そうにアキを見上げた。


「どうせお前、またここの段につまずくんだろう」

「二回はつまずかないって」


アキはこつ、と少し浮き上がった床を蹴る。


後ろから冷やかしの声が響く。

アキは振り返り、眼光を光らせ睨む。


倍は多くなったであろう仲間は、また笑いはじめた。


「で、彼女の体調はどうなんだ」


リゲは長椅子に腰をかけ、アキを見ながらそう聞いた。


「何で私のこと聞いてるのに、アキのほう見るの?」

「照れてるのだろうな、おっさんは」

「私はおっさんではない!まだ三十路だ」


呆れた様子でアキは机に腰を掛ける。

カイルは膝の上でバランスを取りながら、落ち着いたところでリゲを見下ろした。


「・・・・・・・たた、体調はどうだ」

「全然大丈夫だよ。まだご飯戻しちゃうけど」

「・・・・そうか、気をつけてくれ」


リゲは視線を逸らしながら言った。

アキは静かに舌打ちをする。


< 290 / 298 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop