海上船内物語
■伝説
「ねぇ知ってる?」
一人の女は身を乗り出した。
酒を飲んでいたほかの女達も、同じようにして身を乗り出す。
「・・・・・死神船の、はなし」
「あぁ、私知ってるわ!“女神”が乗ってるって話よね!」
「違う違う、それもあるけど、その船の前を通った船は、跡形もなく消されるそうよ」
「死神船は、どの海賊にも負けないんですって」
「逆に怖いわよね」
カラン、と酒の中の氷が割れた。
「私、旦那が漁師だから毎日港に居るけど、そんな船は見たことないわ」
「私もよ。私は“女神”が見てみたいわ」
「母や父は見たって話をしていたけどねぇ」
「あぁそれ、うちも」
一瞬だけ、その場が静かになった。
ひとりの女は口を開く。
「・・・まぁ、それもすべて私が小さい時に聞いた伝説なんだけど」
「二十年は前よね」
「そう、伝説。」
カランカラン。
飲み干された酒のコップで、氷は踊った。
fin.