海上船内物語
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男は、鼻を刺す血臭に眉を顰めた。
「アル、入れ」
その図太く低い声を聞き、アル、と呼ばれた男はドアをゆっくり開ける。
「何、急に呼び出ちゃったりして」
かちゃかちゃと腰に付いているサーベルを鳴らしながら、アルは近くの椅子に腰を落ち着けた。
「いやなぁ、お前の力が必要になって」
「貴方なら一人でも十分な気がするけど。」
部屋中に染み付いている血臭を手で払いながら、アルは“男”を見上げた。
「そろそろアイツを手に収めても良い頃なんじゃないか、って。」
溜め息をつくアル。
「何だ、貴方は面倒臭がりなだけじゃないですか」
「ははっ、実にその通りだ」
“男”は立派な木椅子に座り、足を組む。
「アイツを手に収めるのは多少根気が要ってなぁ。わしはもう歳だからお前に任せたい」
「ええー・・・、それ、船長に任せてよ」
「お前の所の船長はもう相手が居る。だから、アル、お前しか居ない」
にやりと“男”は嗤った。