海上船内物語
『でもカイル、俺も人斬るのは好きだぜ?』
酒を煽る父が笑顔で言う。
『肥えた体を震えさせて、恐怖に歪んだ顔を踏み潰して、それでも命乞いする身体を、刃物で切り裂く。
汚い色してた身体に鮮血が走って、辺りに綺麗な花みてぇな赤を落とす。その昂揚感、俺は堪んなく好きだね』
お前もなんだろう?
と、父親が子供のような顔で笑う。
『・・・・・・・・・ぁ、・・・・』
『お前も俺の子供だなあ!ガハハハ!!』
剣を持つ手が、震える。
初めて、人の“赤”が恐ろしいと感じた。
十一歳。
特に何もする事が無く、海賊の溜まり場から抜け出して、堤防で海をただ眺めるのが好きだった。
『父ちゃん、私も船乗りたい』
『船?ベイズラリアに入りてぇのか?』
『うんっ!』
『あー、悪ぃな。女は乗せられねぇ。難破するんだよ、船が』
それから毎日、カイルは堤防で海を見続けた。
一日中なにもする事が無く、ただ揺れる波を見続ける。