我が異常な闘争 または私は如何にして心配するのを止めて闘いに巻き込まれていったのか
だが、そのシミュレーションの結果は、私の脳内の学界を二分するほどの大きな争いをもたらすものだった。

 解析の結果。
Ⅰ.目の前の女性は、私に対する環境的要因に寄る純粋なる一時的興味を持って話し掛けてきたにとどまり、それ以上の感情的変化ないし永続的な関係を前提とした接触を行う旨の目的をもって、私に対する何らかの法的効果を期待していわゆる声かけ行為を行ったと考えることは、各人の価値観の多様性と比較衡量するにしてもなお、社会一般の通念に照らして合理的な規範意識であるとは認め難い。(通説・脳内最高裁判所判例)

Ⅱ.目の前の女性は、踏み切りで電車が通過する前に私が見つめる姿に気付き、それが、ストーカー行為等の規制等に関する法律に定義されるではつきまとい行為を2回以上反復して行ったものと判断し、警察に告発することを決意し、その証拠として、犯人(私)に犯行理由の陳述を求めるべく、勇気をもって犯人(私)に接近してきている。(有力説)

 前者の説はこのシミュレーションの結果としては妥当なものだろう。
 なぜなら、私は何も電車の通る前と後に、目の前にいる女性をじっと見つめただけで、目が合った(ような気がした)という環境的な要因でなんとなく興味を持って、しかも今日という日は、桜の花びらが秒速5センチメートルで舞い散るような陽気の-なにか良いことがおきそうな日であるから-例えあいての女性が私に対して何らかの恋心を抱くような化学変化があってもよさそうなものではあるが、まあ一般的な価値観に照らして言えば、とりあえず目が合ったという切っ掛けをもって一時的な興味をそそり、私に声をかけてきた、と考えるのが自然だろうからだ。
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