Colorful World
「旭、あなたは出ていかないの?」
「え…?」
「別にあなただって出ていっても構わないのよ?空は出ていくかもしれないって、あなたさっきそう言ったけれど…。あなた自身が出ていくという発想はない、みたいね。」
「…そう言われると、そうですね。そういう発想、出て来なかった…。」

 確かに驚きはしたけれど、別に一緒に暮らすことにすごく抵抗があるわけでもない。

「どうして?」
「どうして…って言われるとちょっと困りますけど…。でも別に雪城さん、悪い人そうには見えないし。」
「でも厄介よね。喋れないわけだし。」

 『厄介』という言葉にトゲがあるように聞こえる。別に旭はそう思わない。海理は、穏やかに優しく言葉を描く、そういう人な気がする。今のところは、だけれど。

「んー…厄介じゃないですよ。さっき、唇の動きで言葉伝えようとしてくれたんですけど上手く読めなくて…ちょっと悔しいなとは思いましたけど。」
「悔しい?ぷっ…あはははは!やーっぱり旭ね!さすが!私が見込んだだけのことはある!その意気やよし!悔しいなら唇の動きで海理が言いたいことを読めるようになるよう精進しなさい!」
「な、なんなんですか!いきなり師匠みたいな物言い…!」
「旭が意外とやる気あるみたいで良かったわー。明日来るはずの子も色々と問題アリだから、先に情報渡しておこうかとも思ったけど、やっぱりそういうのは良くないわよね。…徐々に、少しずつ、お近づきになってください、旭サン?」
「…なんか言い方に激しく嫌味みたいなものが混ざってて困るんですけど。でも、先に情報とか渡されても変な先入観とか入っちゃいそうなので遠慮しておきます。千草さんの言うように徐々に、っていうのが性に合ってる気もするし。」
「そうね。旭はそういうタイプかも。
それじゃ、困ったことがあったらいつでも連絡頂戴ね。あ、メールはやめてよメールは。返さないからね?」
「分かってますよ。…それじゃ、おやすみなさい。」
「おやすみー♪」

 無駄にテンションの高い千草のおやすみをぶった切るように、旭は受話器をいつもより強く下ろした。

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