Colorful World
 海理は一曲弾き終わると静かにピアノから指を下ろし、小さく息を吐いた。その呼吸に合わせるみたいに海理も小さく息を吐く。
 止めろと言われたわけではない。だけどいつの間にか息を止めていたらしい。止めていた間は苦しくなんかなかったのに、いざ曲が終わると身体が酸素を求めていた。

 …とても綺麗な音で、透明で、キラキラしていて。それなのに、どうしてこんなにも…

「…切ない…。」

 旭の言葉に海理が振り返る。そして、旭の表情を見つめる海理の表情が曇る。ペンが大慌てでメモ帳を駆け抜ける。

「ち…違うんです!雪城さんにそんな顔してほしかったわけじゃ…。」

 ペンを動かす手がピタリと止まる。

「え…?」

 海理は顔を上げ、メモを旭の方に向けた。そこには…

『そんな顔しないでください』

(…さっき、あたしが口にした言葉。)

 それが確かに彼のメモにはあった。
< 16 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop