Colorful World
【空side】


…今の旭に当てはまる言葉は〝無責任〟の一択しかない。
広いリビングににこにこ笑顔の得体の知れない男。(あまり男っぽくはないけれど。なんて言うか、中性的な面立ちというのが適切かもしれない。)
挙句、よく分からない傷だらけの男の子までいるらしい。


―――今この家にいる人間で自分以外は男。
…最悪の状況、だというのに。


キッチンに立つ白シャツの男は私の心中を察するはずもなく鍋を温めている。


すっと私の方を振り返るとメモにペンを走らせた。


『何をお飲みになりますか?』

「…自分でやるわよ。」

『はい。』


にこりと帰ってきた笑顔。
さすがに『はい』は口の動きで読み取れた。
…旭は、そこそこ長い言葉も読み取れているみたいだということはさっきのやり取りで充分に分かっている。


ふわりと柔らかい香りがリビングを包んでいる。
香りだけでも十分美味しそうだ。


温めたスープをカップに入れてテーブルに置く。
空いた手で旭の使っていた食器を流しに戻す。


無駄のない、洗練された動きを自然としてしまう、そんな印象。
見た目は一般人となんら変わりはないのに…。


〝音〟がしない。


それが唯一、一般の枠から外れる彼の一部。


コトン、と置かれたトースト。
私のコーヒーも準備が出来た。

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