Colorful World
旭と彼は向かいの席に座っていたようだ。
もちろん私は、彼と面と向かって座って食事を終えられるはずもない。
かといってその隣に座るのも無理だ。
…身体が受け付けない。〝男〟を。


彼が食事を置いたのは、彼の斜め向かい。
気を遣わせたのだろう。


私は彼の斜め向かいに座った。





「いただきます。」


私の言葉に反応して彼の口が動く。
ただ、文字数が多くて私には読み取れない。


すると私の困惑に気付いたかのようにメモを取り出し、ペンを滑らせる。


『すみません。
今のは「どうぞ、召し上がってください」です。
口を動かすスピードが早かったですね。』

「旭は今のスピードでも読めるの?」

『はい。』


…とても嬉しそうに、優しく、彼は微笑んだ。
彼にとって本当に嬉しいことなのだろう。


スープを一口、口に運んだ。


温かくて、美味しい。
本当に〝美味しい〟と感じるだけの味が舌に伝わってくる。


高級食材を使っているわけでもないのに、野菜そのものを美味しく感じる。


…使っている調味料は以前と変わらないはずなのに、ここまで差が出るのは不思議だ。

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