Colorful World
またペンが動く。


『お口に合いましたか?』

「ええ。問題ないわ。」


〝美味しい〟と思っているのに言えないのは私のせいだ。
彼に何の咎もない。そんなのは分かっている。


…でも、無理なのだ。
〝男〟は苦手で怖くて、〝嫌い〟なのだから。


なら、どうしてこの人だけは…?
そんな疑問が頭をかすめるが考えるのは止めにした。
せっかくの美味しい食事を、まとまりそうもない考えで台無しにしたくはない。





それ以降はお互いに無言だった。
もともと彼は〝音〟を持たないし、私も彼に対して〝音〟を持てない。





「ごちそうさま。食器の片付けは私がやるから、あなたはその、男の子とやらの面倒の方をお願い。」

『分かりました。』


私がこの日、唇の動きで読めた最後の言葉がこれだった。


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