仇恋アベンジャー
「お父さん」
呼びかけると安心したように笑う。
私、一体どれくらい眠っていたんだろう。
「ねぇ、今何時?」
「1時を回ったところだ」
「昼? 夜?」
「夜だよ」
父はスーツ姿だ。
仕事納めの飲み会帰りなのだろう。
どうやらそんなに長くは眠っていなかったらしい。
所々の記憶がよみがえる。
右側に感じた強い光。
顔で触れたアスファルトの感覚。
救急隊員の声。
「雄輔は?」
「しばらく入院だそうだから、お前の着替えを取りに行ってるよ」
「そっか。心配かけてごめんね」
だんだん余計なことまで思い出してゆく。
痛みとか、恐怖とか。
恵一の顔とか、新しい女の顔とか。
いっそのこと忘れられたら良かったのに。