とある國のヒメ
兵士たちの声が聞こえなくなり、しばらくしてから私は顔を上げた。
まだ少し冷たい風が、頬を撫でる。
周りの景色が、先ほどとはだいぶ違う・・・。
うっそうと生えている木々が、こちらを見つめている。
月だけが、当たりを照らしていた。
まだ、カイは走り続けている。
カイの額には汗が滲んでいた。
「この辺までくれば、大丈夫だろ・・。」
カイはそう呟くと私を下ろしてくれた。
「・・・あり・・・がとう・・・。」
私は少し心配になって、周りをキョロキョロと見回した。
もしかしたら・・・もしかしたらまだ誰かがいるかもしれない。
「大丈夫ですよ。ここまでは追ってこない。」
まるで私の心を見透かしたようにカイが言った。
そっか・・・。
緊張がほぐれたせいなのか、急に頭の中がぼうっとしてきた。
目の前が黒い闇に包まれていく。