とある國のヒメ
「ちっ」
すぐそばで、舌打ちが聞こえた。
「ここにいたのか。姫と・・・カイ。やはり逃れていたのか。」
この声は―――
あの時、抜け道の中で聞いた、声。
恐ろしさが蘇ってくる。
・・・こわい。
カイが、私を背中に回した。
綺麗なカイの黒髪が、風で揺れている。
それだけで恐怖がすこし薄らぐ。
「カイ、姫をこちらに渡せ。」
「嫌です。」
カイはすぐさま答えた。
静かに、時間だけが流れてゆく。
本当は短い間なのだろうけれど、私にはとてつもなく長い時間に感じた。
「・・・お前には才能がある。わしはお前を殺すのが惜しいのだ。その姫をこちらに渡せば、お前の将来は保証してやる。」
「何度言われても嫌です。」
「考えてもみろ。姫はもう、何ももってはいない。そんな姫を守ったところでなんになる?先の王は死んだ。お前の主はいなくなったんだぞ?カイ、お前はもう自由の身だ。」
え?
今なんて?
お父様が――――――
死んだ・・・・・・?