僕らが今いる今日は
「平岡さんは、靖修、なんだってね。志望校」
わたしは頷いた。
妹尾仙蔵は「成績優秀なんだな」と言った。
靖修高校は、偏差値で言えば、上の上。
当然、学区内で一番難しい進学校だ。
「でも、北竺も勧められてるんだってね」
北竺高校デザイン科、この辺りでは唯一の芸術専門コースで、確かに宮下先生に再三勧められていた。
「才能がもったいない、ですか?」
何度も言われた。
宮下先生はもちろん、友達にも、後輩にも。
妹尾仙蔵は黙ってわたしと絵を交互に見つめ、そうだよな、と頷き、でも、「君は芸術の才能がないな」と静かに笑った。
ショックは、確かにあった。
悔しかった。
でも、ああそうかもな、と意外とすんなり心に沁みた。
楽しくないだろう?と妹尾仙蔵は言った。
わたしは何も応えなかった。
否、わからなかった。
絵を描くことに抵抗を感じたことはなかったし、嫌いじゃなかった。
自分の好きで描いて、描けば周りが喜ぶのは嬉しかった。
そういうの全部、楽しくなかったわけじゃないから。
妹尾仙蔵はわたしを見て、首を横に振った。
全力じゃないな、とも言った。
美術は楽しいものなんだから。高校はたった三年しかないけどね。一緒に夢中になろう。三年間、夢中になって楽しいお絵かきをしよう。
だから―。
「坂咲においで」