僕らが今いる今日は
 「…走に女の子の友達がいるとは思わなかったな」

苦笑いが、わたしに向けられた。
わたしは黙っていた。
口調こそ柔らかではあるけれど、表情には驚きよりも、訝しさのほうが先に浮かんでいる。

「もしかして彼女?あ、マネジャーとか?」

「友達でも、彼女でも、陸上部のマネージャーでもありません」

「じゃあファンかな?」

少し、ムッとした。

「違います。
そもそも、あなたが気にすることじゃないと思いますけど。他人の人間関係に口をはさむのは失礼ですよ」

きつい言い方になってしまった。
でも、相手は鼻白んだそぶりも見せず、それもそうだな、と言った。
余裕がある。
頭の回転が速い。
そのぶん冷静で、感情的になって食って掛かってくることはないだろう。

「何がってわけじゃありませんけど、
本人が満足しているなら、今の現状でもいいと思いませんか?」

言ってしまった後で、気づいた。
余計なお節介をしてしまったと。

相手は爽やかな笑顔を張り付けたまま言った。

「それこそ、君が口を挿むことじゃないんじゃないのかな?余所の揉め事に首を突っ込むのは感心しないな」

よそ者は関わるな―。
刺々しさを含んだ言葉に、引き下がるしかない。

「そうですね。すみませんでした。失礼します」

望たちの向かったほうへ、足早に向かう。
後ろから引き止められることはなかった。

怖かった、とため息がこぼれた。


     *


 相澤走の兄、相澤陸。
陸上のエリート校、神城学院陸上監督。

そのことを聞かされたのは、三人に追いついた直後だった。



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