僕らが今いる今日は

・瞬

 今までで一番最悪の結果になった、塾の模試が返却されたのは、昨日のことだ。
成績順に分けられているクラスのほうも、一番上のSクラスだったのが、Bクラスまで一気に落ちた。
志望校の判定は全部D判定以下。
正直焦る。
まだ五月だから。
大丈夫、まだまだ挽回できる。
でも、もう五月なんだと、夏に向けてすっかり半袖に変わってしまった級友たちの制服がひしひしと伝えてくる。
 
 親には見せなかった。
智基のことがあって、うちの中は、今まで以上にピリピリしている。

 あの後、橋本くんは、誰にも会わずに、行く先も告げずに、引っ越して、転校してしまった、らしい。
橋本くんは、智基にも、会ってくれなかった。

 だから今は、余計な心配事は、増やさないほうが無難なんだよ。
最低。
ホントにサイテー。
なんだと思う。
何がサイテーなのかは、わからないんだけど。

 授業が物足りない。
今は六時間目の数学だけど、とっくに塾でやってしまったところだ。
進度が遅すぎる。
本当はセンター問題の基礎的な演習とか、やってほしい。

「ここ、期末に出すぞ」

 教室がざわついて、周りが慌てて教科書やノートに書き込みをしたり、マーカーでラインを引いたりしている。
ここ、を聞きそびれてしまったわたしは、ちらっと隣を見て、それから真っ白な自分のノートに視線を落として、まあいいや、と諦めた。

 9月には体育祭、11月には文化祭がある。
この学校は、大学受験には向いていない。
始めからわかっていたことだけど。

 教室を眺めまわした。
桐島くんが、寝ている。
練習で疲れているんだろうか、周りに気を使いすぎているんだろうか。
勉強に関しては、宿題もたびたび忘れるし、意外と不真面目なところがある。
次のテストは、ヤバいんじゃないの?、なんて。
望は案外真面目に授業を受けている。
多分、理解してはいないんだろうけど。

 望と目があった。
望は困ったように笑って、一音ずつ確かめるように、口を動かした。

 あ・と・で。

わたしが頷くと、望は前を向き直った。
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