僕らが今いる今日は
 高校生になって、ずっとイライラしていた。
中学の時より、友達ともうまくやっているはずで、親の言うことに反抗したこともなくて、優等生のイイ子になったはずなのに。
上手くいかないわけじゃない、と思っている。
順調、何も問題ない。
成績もいい。
塾にも行って、自分で勉強して、だから結果もちゃんとついてきている。
進路はうちの普通高校みたいに進学率もたいしたことないところじゃ、誰も受験しないし、できないような難関私立大学か国立大学を志望にしている。
何が不満なのかと聞かれたら、きっと答えられないだろう。
でも、これでいい、満足していると、自信を持って言えるとは思えないし、思わない。
言葉で言い表せないものがもやもやした気持ちの奥に沈殿して、でもそれが一番大事なことで、言いたくて、だけど言葉にしてしまうとやっぱり何か違ってしまって、うまく言えなくて、一番難しい。

 くわえて、智基のことだ。
智基は余計なことを言わない。
いつだってそうだ。
色んなことを我慢して、全部自分一人で背負ってしまう。
今だって、そう。
智基から直接聞いたわけじゃないけど、見ていればわかってしまう。
夜の寝付きも、朝の寝起きも悪くなった。
顔のあちこちに吹き出物ができたし、きっと爪を噛んでいるのだろう、指先も爪の先もひどく荒れている。
気にしていなければ見逃してしまうような些細な変化だけど、一度目につくとあちこちに綻びが見えてしまう。
両親は、全く気づいていなかった。
気づいてよ、早く、気づいてよ。
智基はもう、わたしが気づいていることに気づいているだろう。
だから決して頼まれたわけじゃないけど、わたしからはまだ、両親に何も言ってない。
理由はないけど、そうなんだ。
これもやっぱり、この気持ちもやっぱり、一番大事なことなんだ。
間違ってても大事なことって、やっぱりあると思う。 


     *


 ショーケースに並んでいたほうじ茶シューは、最後の二個で、ふたつも買うつもりなんてなかったけど、両方買ってしまった。
智基に一個お土産にするのもいいかもしれない、なんて。
我ながら、弟に甘いと思う。
でもそういう自分は、案外嫌いじゃなかったりする。

 
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