僕らが今いる今日は
「臆病だよな。人のせいにして、自分の能力に自信がないことから逃げるのは」
言葉に、はっきりと棘があった。
ゆっくり、確かめるような口調だ。
センちゃんから、芸大やデザイン関係の専門学校を勧められたことはなかった。
だから理解のある先生だと思っていた。
その理解が、わたしの思っていたより、もっと深かったことに、たった今、気づかされた。
一度も口にしたことはない、夢、というか憧れ。
わたしがずっと目をそらしてきた、認めたくなかった、それ。
多分、気づいてるんだ、センちゃんは。
センちゃんはため息交じりに、黙り込んだわたしを見て、「無駄か」と言った。
「その封筒は持っていきなさい。それから、引退する前にもう一枚提出な。題材も画材も自由」
「今までの集大成ってことですか?」
センちゃんは答えてくれなかった。
センちゃんが無言で伝える言葉や思いを、三年間一度も、わたしは本当に正しく受け止められないでいる。
「こっちは六組の生徒に渡しといてくれ。再提出だ」
センちゃんは分厚いファイルから画用紙を一枚抜き出して、わたしに渡した。
雑で、へたくそな絵。
ちっとも描きこまれてない。
裏面に相澤走と書かれているのを見つけて、内心ため息をついた。
予感はしていたのだけど。
茶封筒と画用紙を持って、失礼しました、と準備室を出ると一気に肩が重くなった。
気を張っていたんだろう。
センちゃんは甘くない。
油断すると、気持ちの一番深いところまで絡みついてくる。
けして自分の意見は押し付けてこないけど、抱き寄せるように絡みついて、背骨を折るように、心の芯をボキッと折られる。
そうなったら、あっさり、センちゃんの意見に屈してしまいそうになる。
美術室に向かいながら、茶封筒の中身が気になって中を見た。
ずっしりと重い紙の束を取り出してみて、絶句。
茶封筒の中身は、全国の芸大の大学案内だった。
センちゃんはやっぱり甘くない。
センちゃんは甘くないから、優しいと思う。