僕らが今いる今日は
 どこでどう間違えてしまったんだろう。
自分に対して妥協したことはなかった。
勉強もそうだし、得意ではないけれど、スポーツにも意欲的に取り組んできた。
ちゃんと考えて、正しい道を選んできたつもりだった。
それはいい成績のことで、いい大学で、安定した職で…全部社会的に間違ってなんかいないんだから、余計なことは考えちゃダメなんだと思っていた。
大人が求める、理想のいい子。

 でもそれは、目を背けてほかの可能性を探ろうとしていなかったってことだ。
だから今、いつの間にか出遅れてしまっている自分に、焦っている。
何も間違っていないはずなのに、これでいいの?と思ってしまう。


 雑誌を見ていたはずなのに、いつの間にかいつもの迷いに引きずられてしまった。
ほんと、こういうとこがだめなんだよ…。
苦笑いで雑誌を片付けて、教科書を広げる。
勉強しているときは、無駄なことを考えずに済むわけだから、案外いい気晴らしなのかもしれない。





 携帯電話が鳴った。
どうせ望だろうと画面の発信者表示を見た途端、うっかりケータイを取り落しそうになった。

【三浦瞬】

 不意打ちではなかった。
智基の一件が発覚してから、シュンは心の片隅にいた。

 橋本くんをいじめた主犯格、三浦亮介の兄。
わたしの中学の同級生で、今は友達なのかすごく微妙なポジションの人。

『マコ?マコだよな?』

 電話越しの声は、中学のころから全く変わらない。
忘れていたわけではない。
ただ記憶の底に沈めておいたものが、じわじわ浮かび上がってくる。

 急に鼻の奥がツンとした。

「何?どうしたの、用事?」

『いや、そうそう、そうなんだ、うん、そうじゃなくて、あのな、えっと…元気か?』

 シュンは初めて会った時から、騒がしい人だった。
おせっかいで、なのに微妙にピントがずれてるところがあるから、結局一人でから回ってしまう。
だからこそ掛け値なしにいい人で、ちょっと望に似てるかな、とも思う。

「まあ、うん。ふつう」

『…だよな、うん、じゃあいいんだ。いいんだよ』

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