僕らが今いる今日は
 相澤走に、話しかけられた。
面倒なことになる。
直感的にそう思ったけど、努めて表情にはださないようにした。
最悪だ。誰も見てないといいけど。
万が一にでも、望に誤解なんかされたらたまらない。
 自分から話しかけておきながら、相澤はそのまま固まってしまったようで、黙っていた。
煮え切らない。
用事があるのなら早く言ってほしい。

「何?」

思いっきりそっけない声で言ったつもりなのに、相澤は端からわたしの声なんか聞いていないようで、いかにも覚悟を決めましたという顔になって言った。

「すみません!
俺、ほうじ茶シュークリーム買いに来たんだけど売り切れになっちゃっていて…その、もし良かったら1つ俺に売ってください!」

「え?」

聞き返す声が裏返って、思わずほうじ茶シューの入った袋を落としそうになった。
初対面の相手に、売り切れていたので一個売ってくださいという神経がわからない。
そんなの自業自得でしょ、という言葉を寸前のところで飲み込んだのは、相澤が顔の前で両手を合わせて頭を下げていたからだ。

さあ、どうする……

さっさと一個渡してこの場を離れる、ああでも、よけいな恩を売ったら、あとで厄介なことになるかもしれない。
妙な縁は持たないほうが無難だ。
ここで冷たくして嫌われておけば、後々もし望に疑われることになっても誤解も解きやすくなるのだから。

なかなか答えを出さないことにしびれを切らしたのか、相澤はわたしの顔色を窺うこともせず、勢いで迫ってきた。
つくづくうんざりした。
勢いで押せば何でもまかり通ると思っているあたりが最低だと思う。
自分が相当失礼なことをしていると気づかないのだろうか。
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