走る風を追いかけて
体の奥から込み上げてくるものがある。
でもわたしはそれに気付かないふりをした。
だって、そうでもしなきゃわたしは……
壊れてしまうから。
「っはぁ……っは、」
追って来てはないと思う。
それくらいわかってる。
止まらない。止まらない。止まらない。
もう、桜の花びらが顔にまとわりついてくるのなんて気にしてられなかった。
腕を一心不乱に振り上げて、スカートが捲れあがるのなんてお構い無しにただただ逃げるように走る。
向かって来る風を切って、吹き荒れる桜を無意識にはらって、進む。
心臓がはちきれんばかりに大きな脈を打って、何がなんだかわからなくなって―――
「うぉっ!」
「……った」
自分が何なのかわからなくなるくらいに走っていたら誰かの体にぶつかってそのまま後方へと倒れる。
勢いがついていた分、衝撃は強くてわたしも相手も自分の体を支えきれず、重力によって地面へと体を打ち付ける。
おでこに来た痛みとは違う硬い激痛がわたしを襲った。
「ったいぃぃっ!」
痛い。本当に痛い。
小指を扉の角におもいっきりぶつけたような痛み。
わたしがそれに悶えているとぶつかった人物は腰を擦りながら立ち上がった。
「ってぇな……あ? なんださくらか」
「うー。 あ、なず」
「はぁ、ったく。 ほら、立てよ」
「――っあ」
ぱしん、という乾いた音が昇降口に響いた。
――なぜ。
加害者はわたしだ。被害者はなずで、なずは何にも悪くない。
手を差し伸べようとしてくれただけ。
違う。なずは違う。なずはなずの他の何でもなくて、なずなんだから。違う。ちがう
ちがうっ……!!
「って」
「――ッッ!」
足は、勝手に動き出した。わたしは土足のままで階段を駆け上がる。
足が震えて止まらない。膝はガクガクいって今にも崩れ落ちそうなのに、それを理性が阻止した。
いつもの景色に、いつものわたしじゃないわたし。
脳裏に浮かんだ人物はふたり。
でも、わたしは現実を向かなくちゃいけないから。