走る風を追いかけて
風が吹いているわけではないのに頬がピリピリと痛む。
重い身体を必死で引っ張ると思ったよりも速くて目の前がぼやけるのを気にせずにいられた。
廊下の一番奥にある教室だけを見て勢いよくその扉を開かせる。
バンッ、という何かに弾かれたような壊れたような音がして中にいた数人の生徒はわたしを見ていたけど、そんなのはどうでもいい。
わたしの求めていた彼女はいつもの場所にいた。
「っちかちゃっ!」
先程の音でこちらに振り向いていた彼女に駆け寄る。
彼女はいつものベランダで、手すりに片手を置きながら桜の花びらを頭に乗せてきょとんとしていた。普段と変わらない彼女を見たら、なんだか急に気持ちが落ち着いて来て全身の力が急に抜けた。
「……ち。 ぶっ」
そのまま彼女に歩み寄ろうとしたのを、透明な壁に遮られた。
ある程度落ち着いたものの、まだ気持ちはどこか遠くの方にあったためか、わたしはその透明な壁に激突する。
顔面激突。反射的に手で顔を覆いうずくまった。
「っぶはははは! さくらってば何やってんのっ 顔、すごかったって!!」
「……」
「うぇふっゴホゴホ、あーっもーホント可笑しいんだからーっ」
「っ……」
「何よ。なんで何も言わな……」
あー……。と言いながら丸くなっているわたしを包んでくれる彼女のからだは久しぶりの暖かさを感じた。
母親が子供をあやすときにポンポンとお腹を叩くのはなぜだろうと思ったことがある。けれどそれは誰に教わったわけでもなく自然に手が動いてしまうものだ。どんな効果があるとかいう知識はないけれどきっと、子供は自分でも知らないうちにそれを覚えているのだろうと思う。