大人恋愛部
部長が連れて来てくれたのは
座席が半個室の居酒屋だった


薄い簾と壁で仕切られた狭い空間に
テーブルを挟んで向かい合うように座った


「そう言えば、こんなチャンとした居酒屋に来るのは初めてだな。」


部長がチーフだったころはご飯と言えば
立ち飲み居酒屋か牛丼チェーン店などが多かった

もちろん当時の私は
それに不満を感じたことは一切なく
むしろ高級なところよりもリラックスできてなんでも話せていた気がする

「そうですね。
…良く来るんですか?」


「いや、たまに友人と仕事帰りに飲んだりとか
そう言う程度だな。

立ち飲み屋も良いんだが最近は若い奴らが多くて
なんだか落ち着かないんだよ。」

俺も歳だな


なんて言いながらさりげなくおしぼりを渡したり
メニューを渡してくれる辺りは昔とちっとも変っていない


ただ
居酒屋特有のオレンジがかった薄暗い照明に照らされた顔には
前は無かった皺がうっすら刻まれていた


< 49 / 59 >

この作品をシェア

pagetop