Rest of my Prince
俺の声と同時に、櫂は地面を蹴って飛び上がった。
宙で倒立するように身を反らせ、通り過ぎる車の屋根に片手をついて更に空高く舞い上がり、くるりと半回転して態勢を戻すと、悠々たる様で手から緑の光を放出させる。
櫂の…風の力は、目標を見失い危険な蛇行運転をして…制御不可能に陥った車を包み込んで。
猛速度で急ブレーキがかかったような反動に、車体は派手にひっくり返る。
「お前…俺には素手と言ってよ…」
ふわりと地に足をつけた櫂に、口を尖らせ俺が文句を言うと、
「ま、ストレス発散ということで」
しれっとした顔で櫂が答える。
「よし。もう遊びも十分だな。さ、行くか」
そう歩き始めた時――
「我ら"四神会"の総長に…なって下さい!!!」
突然、1人の男が俺達の後ろで土下座をした。
「我らは、東京に勢力を置く…"玄武"、"白虎"、"青龍"、"朱雀"…総称して"四神会"。自分は"玄武"総長の氷沼といい、"四神会"総長不在にて、総長代理を務めさせて頂いている者です。
恥ずかしながら今の"四神会"、仁流会から流れた薬に乱れるにいいだけ乱れ、無秩序状態で崩壊寸前。貴方達の強さがあれば、まとまることが出来るかと。どうか…お願いします」
プライド捨てて土下座する程、切羽詰まっているのは判ったけどさ。
今時、そんなベタな事情抱える暴走族があるっていうのも判ったけどさ。
「"四神会"が仁流会の手から離れるために!!!」
紫堂財閥の御曹司に…総長になれって?
当然櫂は無視して、すたすた歩き始めた。
「貴方が駄目なら、そこのオレンジの貴方でも…」
「……。どちらも断る。そんな義理はない」
「お前達とは世界が違うんだよ、諦めろ」
「あ、諦めませんから!!!」
そんな声が聞こえた気もしたけれど、俺達はそんな"お家事情"を無視して、公園を遠ざかった。
櫂の総長。
格好いいかもしれねえけれど…櫂は裏ではなく、表に立つ男。
そして俺は、櫂の護衛役。
俺達がそんな世界に身を投じるなんて、夢物語だ。