Rest of my Prince
そんな時、櫂に呼び出され…由香ちゃんによって打倒Zodiac案が具体化して。
僕達は各々、音楽室のブースに閉じこもり、高校3年だというバンド現役経験者である少年の指導を受けていた。
廊下ですれ違った時、丁度彼は煌のブースから出てきた処で、皆の様子を聞いてみたけれど、
「マジ…やばいっす」
その顔はかなり青ざめて。
落ち込んだように、隣の桜のブースに入っていく。
櫂や桜が、やばいということはないだろう。
だとしたら、煌か?
こっそり覗いたブースでは、煌がドラムを無心に叩いていて。
おいおい、そんな速度で最後まで行く気かよ?
煌の律動(リズム)感は思った以上によく…
ギターではあんなに煩悶していたくせに、スティックを持ってスネアを連打するその動きとリズムは何処までも正確で美しい。
由香ちゃんが看破した通り・・・適性だ。
「へえ? シェイクなんて教えて貰ったんだ」
僕がそう声をかけると、
「馬鹿にすんなよ。教えられる以前に、俺が知らないはずねえだろうがよ。――あんな甘い食い物…あ、あれは飲み物か?」
…"技"を教えてもらったわけではないらしい。
煌は本能の男だということだ。
「あの3年の男さ…適当にやってればいいって俺ほっぽるんだ。盛り上がり時には上のシンバルみてえの、ガンガンと鳴らせばいいって。ドラムってこんなんでいいのか? 俺適当三昧だぞ? 『太鼓の達人』の連打バージョンだぞ?」
「お前は、下手に型に嵌めない方がいい男なんだね。適当でいいよ、適当で」
ドラムは大丈夫そうだ。
桜のブースを覘けば…
「もういいです、先刻基礎しか教えなかった俺が悪かったです。アドリブでさらりとオリジナル超えないで下さい。速さもテクも十分凄いの判りましたから、それ以上のテクを俺に求めるのはどうか勘弁して下さい」
悲鳴に近い声。