Rest of my Prince
完全なる静寂。
「"その視線が唇に落ち、首筋に落ちてくれば"」
櫂が歌詞に合わせ、自分の唇に触れた片手を、首筋に滑り落とした。
その仕草がやけに淫靡で、だけど目をそらせなくて。
「"私の身体は燃え上がってしまうの"」
それまで伏せられていた切れ長の目が開かれ、妖しげな光を放つ。
櫂、あんた――
「"ねえ…焦らさないで、貴方を頂戴"」
何処が音痴よ!!!
「やっぱりキメてくるねえ、紫堂くん。艶ある声音を自然に出せる如月くんとはまた違い、透明な声質の紫堂くんは…うん。歌いなれていないせいか…高音がやや掠れてそれがセクシーだね。ああ、如月くんとハモったら…お互いの掠れ具合が…なんかイヤらしい。ふふふ、やっぱり頑張って女バージョン歌詞、作ってよかったわ」
「弥生が暗躍してたのか!!!」
「女の子が色気を感じるのは、容貌だけじゃないからね。ちょっとエッチっぽく指導してみました。ほら…聞いてる女子達の顔が真っ赤。私まで変な気分になる」
どんな気分かは判らないけれど、2人が歌うのを聞いているだけで、あたしも条件反射のように真っ赤になる。
何が起因の"艶"かは判らないけれど、2人分の色気は強烈で…心臓が狂ったように鳴り続ける。
更に…この2人。
付き合い長いし、仲いいし、お互い好きあっているのは判っているけれど。
凄い。
歌もハモりも息がぴったりすぎる。
抜群の歌唱力で、これだけの音域でハモれるならば、絶対プロでも通用する。
「凄まじい…あらゆる意味で」
思わずぼやけば、含んだような弥生が笑う。