Rest of my Prince
 

「うわ~、紫堂は姉御を超えようとしてるんだ。

おい如月。君こそ、姉御から日々稽古つけて貰えるありがたい環境なんだから、もっと貪欲に意地だせよ」


「簡単に言うけどな、緋狭姉の課題をこなすだけで精一杯なんだって。こなすというより…生き抜くこと精一杯!! まあ櫂も玲も俺より断然強いし、立場上緋狭姉が遠慮している面があると、十分に考慮してもだ!!!

桜!!! お前なら俺と同じ……」


桜はふるふると首を横に振った。


「私も、櫂様玲様と同じ…無理難題は言われていません」


相変わらず無表情で。


「俺だけ~ッッ!!?」


それだけ…見込まれているのだろう。


緋狭さんは、出来ぬことを強いる人ではない。


それだけ見込まれているという…名誉のことだ。


8年前の俺には…武芸など無縁で。


たまに芹霞の家で会う緋狭さんとは、賑やかに話すだけの仲。


それでも十分に可愛がってくれたと思う。


――坊、菓子を横から取られて悔しいならば、私から奪い返してみろ。


今思えば、俺の弛んだ精神を鍛える場面は多々あったのだけれど。


――そうか、そうか。そこまで妹が好きか。


緋狭さんにかかれば俺の心など、始めから見透かされていて。


会って直ぐに、満足そうにそういわれた。


隠すつもりなどない俺は、芹霞の前で堂々と頷いて。


――あたしだって櫂がだいすき。


芹霞だって、堂々とそう宣言して。


満ち足りた幸せな過去。


だけど、何かが足りない俺の過去。



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