Rest of my Prince
 玲side
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緋狭さんの思い出を語る時、どうしても僕には…次期当主であった頃を思い出さずにはいられない。


淡々と――

無感情に過ごしていた日々。


笑いたくもないのに無意味に笑い続けていた毎日。


心は満たされぬまま、次期当主としての僕の表面を、皆より崇められていたあの頃。


――玲の欠点は、藻掻くことを知らないことだな。


教育係である緋狭さんは、そう苦笑した。


藻掻くなんて…無縁だと思った。


僕が何かに執着することはなかったから。

僕が何かに心惹かれることなどなく。


ただ気付いていた。


本当の"自分"。

僕でなければいけない…そう誰かに強く必要とされる僕になりたいこと。


誰か本当の"僕"に気付いて。


そう願いながら、流されてきた僕だけれど。


――あたし神崎芹霞。


1人の少女との出会いが、僕の世界を反転させた。


必要とされたいという受動的な心と同時に、彼女を必要としている能動的な僕。


藻掻くことを知らないはずの僕が、惨めに藻掻いて…どんな苦しくても、それでも諦められない執着心を抱えて生きることになろうと…あの頃の僕は予期していなかった。


駄目だ、もう忘れなきゃ。

芹霞は櫂のものだろう?


秘めた僕の想いは、自らの思いがけない衝動によって櫂にばれ、膨れあがる想い故に…切り捨てることが出来なくて。

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