Rest of my Prince
時々、緋狭様は私の頭を撫でる。
――お前にも苦労させているな。
何を憂えた言葉だったのか。
私は。
私が尊敬する強い主に仕えられて、そして寝食を共にしている。
これ以上の幸せなことがあるだろうか。
したいことをさせて貰えて、言いたいことを言わせて貰えて。
常に傍で控えられる、恵まれた環境。
それの何が"苦労"だというのか。
しかし、緋狭様の黒い瞳には…私はそう映っていなかったらしい。
ただ、哀しげに笑っていた。
その後――
緋狭様の戦闘姿を何度か目にしたけれど。
目の当たりにした破壊力は、私など到底及ぶことは出来ない。
それでもきっと、手加減されているのだろう。
隻腕で、現役を退いていたブランクがあるとはいえ…あの氷皇の猛威の足を止めることが出来る、唯一の防波堤。
冷酷な青に対抗出来るのは、昔も今も…赤だけだ。
燃えるような烈しい赤色。
闇さえ切り裂く、鮮烈な赤色。
感情がない私には、無縁の色。