Rest of my Prince
蓮Side********************



私は――

刹那様がまだ"刹那"と名乗っていた時に、彼と出会った。


聡明でお綺麗で…気の強さはあるけれど、お優しい方だった。


弟の久遠様は、物静かでおっとりとしていて…やはりお優しい方で。


これが"天使"なんだなと、その時の私は思ったものだ。


彼らに会うまで、私は孤独だった。


私の記憶する最初のものは、無機質な灰色の空間。


どこまでも冷たさしか感じられぬ光景。

父も母も知らない。

私と同じ顔をした者達が3人。ただそれだけが私の環境で。

毎日"実験"という名の地獄に日々を耐えるのが精一杯で、それ故に家族というより"同志"のような絆で結ばれていた。

あるのは愛情よりも哀れみ。

何が起因したのか判らないが、旭と月は成長が止まり、続いて司狼、私と…発育出来ぬ身体になった。


そして私達は突然打ち捨てられる。

"ハルト"という存在により、私達はいらぬ存在となったのだ。


突然放り出された私達に生きる術はなく、だからこそ顔を知らぬ"ハルト"は自然と憎悪の対象になる。


人の腹から生まれ出でた者と、人工的に作られた者との違いは、そこまで顕著なものなのか。


戦闘能力が高かったらしい司狼は、私達より遙かに過酷な実験から、首謀者たる女を嫌い、そして更に特別待遇された"ハルト"への僻みから、腹から子を為す"女"全般をに対し、極度に敵意を向けるようになった。


私達は代えのきく存在。


人間でも"天使"でもなく…ただの道具。


完全用済みの私達が、各務の"餌"となりかけていたのを、救ってくれたのは刹那様と久遠様。


私達の言葉により、お2人は実験の存在を知ったようで、荏原と共に私達を匿い、特別保護をしてくれた。


人の温かさというものに、私達は此処で初めて触れたと思う。


お2人は、荏原を通じて人としての最低限の教育と、生き抜くための体術を教えてくれた。それについて行けぬ旭はお2人について回り、本を勝手に持ち出しては読み耽っていたようだ。…読めもしないくせに、私に張り合っていたらしい。



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