Rest of my Prince
ねっとりと重ねられる瘴気が、"約束の地(カナン)"の隅々に充満する。
死者が"生"に執着している様は、ある意味滑稽なものだった。
生者は私だけなれど、同じ"生前"の記憶を持つ者があれば、いつまでも私は、日常の延長から抜け切ることは出来なかった。
何処までが荏原の幻術で、何処までが刹那様の力が作用しているのか判別つかなかったけれど、全ての状況を認識していて、荏原に使われる刹那様が、溜まらなく悲しかった。
いつの頃からか――
彼から情が消えた。
彼は死者を生かす"罪"に、贖罪として自らの"心"を捧げたのだ。
荏原の"道具"として、流されて"生きる"日々。
彼の目には、狂いによって結びついた自分の家族が、どのように映っていたのだろう。
蘇生の中には、刹那様を苦しめた父親と祖父はいなかった。
その思惑は誰によるものだったのか。
死者が生者を気取り、元々の家族構成を忘れて、都合よく振舞える世界。
その中での、刹那様の立ち位置は…道化だった。
各務の憎悪は、唯一の"記憶"保持者である彼に向かい…彼はいつだって孤立していた。
いっそ何も知らねば楽だったのに、知っているが故に…己の存在を虚構に染め、私達が慕った面影を消していき…何も知らぬ道化となられた刹那様。
聡明な彼には、荏原の魂胆は判っていたに違いない。
彼は、慕っていた荏原に裏切られたばかりか、唯一の生者である義理の弟を質にとられ、酷く心を痛めていた。
――オレにはもう、心など…意味ないはずなのにね。
人間は――
――だけど……苦しいね。
何をもって"生"とするのだろうか。
幻だろうとなかろうと、私の目にいる刹那様は生きている。
生きて動いて、心を痛めている。
その彼の何処が"死んで"いるというのだろう。
それならば、ただこう眺めている私の方が感情に乏しく…動くことが出来ない私の方が余程"死者"ではないか。