Rest of my Prince
そして入ったカラオケボックス。
芹霞も煌も歌うのが好きで、学校帰りに立ち寄ることがある。
部屋に入った途端、マイクの奪い合いが始まる。
俺は専ら聞き役だ。
「櫂は…凄い音痴だもんね~」
そう笑うけれど。
「いつの話だ、いつの」
俺のコメカミに浮かぶ青筋。
触れられたくない、過去の疵。
「櫂にも弱点あるんだね~」
芹霞はそう笑うけど。
俺の弱点はお前だけ。
それ以外のものなんて…とっくに克服したに決まっているだろう?
それを言ってしまえば、芹霞と煌のマイクの取り合いに、強制的に俺も参加させられそうだから…傍観者に徹するためにあえて無言を貫いている。
目の前では、芹霞がZodiacだとかいう男達の歌を熱唱している。
耳触りよい曲調だが…それは芹霞の声だからという感も拭えない。
アップテンポのラブソング…らしい。
「貸せよ。素人の俺が歌ってやる!!!」
横から乱入した煌が、芹霞からマイクを取り上げ…歌い出す。
煌の対抗心は強いらしい。
それだけ芹霞が、その男達にハマってしまっているということなのか。
「"どこまでも巡る愛の螺旋~ LALALA~"」
地声より高めに聞こえる艶ある声と、幅広く奏でられる音域。
素直に伸びるその声は、広大な自然界を自由に走り回る動物のよう。
いつも思うが…煌は歌が上手い。
信じないのは本人ばかり。
しかも動物的本能のおかげか、絶対音感もあり…1度耳にした曲は、直ぐ口ずさんで覚えてしまう。