Rest of my Prince
「……。トイレ行ってくる。煌に…マイク上げる。…ぐすっ」
鼻を啜りながら芹霞が個室を出て行く。
多分――
原曲より煌の歌声の方が良かったのだろう。
ドアを開けた時、キッと悔しげな目で煌を睨み付けて、出て行ってしまった。
「俺~!!? なあ櫂、今の俺が悪かったか!!?」
もう歌う処ではないらしい。
マイクを通した大音響の煌の叫びが、耳を襲う。
「お前は悪くないから…まず落ち着け。落ち着いてマイクを…ああ、騒ぐな!! スイッチを…切れ!!!」
俺は煌からマイクを取り上げ、スイッチを切った。
「……。Zodiacって奴らさ…」
ちゅうちゅう、ちゅうちゅう。
完全ふて腐れた様子で、机に置かれたオレンジジュースをストローで音をたてて飲み始める。
「抱かれたい男TOP3に全員が入ってるんだってさ」
奇妙な沈黙が流れる。
「……誰情報だ?」
「遠坂」
俺の脳裏に三日月目が浮かぶ。
ちゅうちゅう、ちゅうちゅう。
「毎日毎日、あんなへっぽこ歌が家中に流れてきてよ、芹霞の部屋にはべたべたポスター貼られててよ、PVを毎回一緒に見させられてよ。
櫂、俺どうすればいいと思う!!?」
うるうると涙で潤んだ俺の飼い犬があまりにも不憫で、
「桐夏祭…邪魔してやろうな、煌…」
「ううう。櫂なら判ってくれると思ったんだよ」
その時ノックの音がして。
注文もしていないのに奇妙に思いながら返事をすると、
「失礼しま……あ、大変失礼しました!!!」
明らかに――
「煌。抱きつくな」
「え? あ!!?」
誤解されている俺達。