恋愛アシスト
一瞬にして悟った。

私には彼が理解できない。

決してわかり合うことはない。

しかしそれは全く悲しいことではない。

むしろ喜びだ。

『萌え』。

もう正しい日本国語辞典に正式に認可されても不思議ではないこの言葉を知らない訳ではないし概念もわかる。

少なからず読書を愛する者にとって生きがいともいえる要素のベスト3に入る感情だということも肯定する。


彼の読んでいた本が可愛いイラストのついたライトノベルでありその言葉を口にしたなら私は理解できた。

顔よりもでかい爆乳を恥ずかしそうに恥ずかしげもなく晒しているエロ艶本でありその言葉を口にしたなら私は許容できた。

かなり理解に苦しむが、『一攫千金ぼろ儲け!!』とかいう経済本でありながらその言葉を口にしたとしても、なんとか譲歩できただろう。


…だが。


彼の読んでいたのは『世界の拷問』。

なにをどう言い逃れようと

『世界の拷問』。


そんなものを読みながら萌えを感じる男など、理解できるはずがない。

理解したくもない。

わからない。

わかりたくない。

ていうか記憶から消したい。

容貌だけにつられてどきどきしたこの心を漂白洗浄して虫干ししたい。

本質的な嫌悪とか自己嫌悪とか色々なものがブレンドされてなんかもう、んんんなああ!!みたいに頭がなってる。

今パンチングマシーンにこの激情を叩きつけたら凄い成績出ると思う。

ていうかマシーン壊れると思う。

ていうか壊す。

ぐちゃぐちゃの頭でそんな事を考えながら落ち付きを手繰り寄せつつ競歩さながらに歩いていると、


「待って」


呼びとめられた。
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