恋愛ウエディング
長いお色直し。

いない新郎新婦。

あまりにも気持ちの悪い不安が喉を押してくる。

何かあったんだ。

そう思った。


「義姉さんが出血した。切迫かもって」


健二さんのその言葉に、息が止まりそうになる。

姉のお腹にすでに新しい命が宿っていたことは知っていた。

まだ安定期に入っていないのに式なんかして大丈夫なのかと

母とひどく心配したのだ。

しかし姉は式を断固諦めなかった。

お腹が目立たないうちにする。

姉のその行動力により、急速に物事は決まっていった。

そうしてめでたくこの日を迎え、ほっとしていたのに

よりによって本番の途中でそんなことになろうとは。


「兄貴は付き添って行った」


な…、なんて、事。

姉と義兄には申し訳ないが、流産云々より結婚式の事を考えて蒼白になった。

だってもう皆揃っていて、結婚式は始まってしまっているのだ。


双方の親戚も、友人も、同僚も、上司も、貴重な時間を裂き、丁寧な服を選んで、大きな金額を祝いに持参してここにいるのだ。

そんな人たちに言えるわけがない。


新郎新婦が不在になりましたので

これでお開きです。


…なんて。


「…ど…」


やっとのことで声が出た。


「どうするんですか」


その言葉を待っていたように、健二さんは私を強い瞳で見つめて来た。

そして、言った。




「着替えて」




…………は?


一瞬、浮かれたドレスではなくきちんとしたスーツに着替えて皆さんに謝りに行くのかと考えた。

しかし、スタッフが差し出してきたのはブルーのドレスだった。

それが、姉の選んだお色直し用のものだと知っていた私は、言われている意味を即座に理解して本気でパニックになった。


「無理です!!」

「無理じゃない!!」


即座に否定され、目の前の人が悪魔に見えた。


彼らは、こう言っているのだ。


姉に扮して、式を続行しろと。
< 3 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop