恋愛ウエディング
たぶん兄に扮するのは彼なのだろう。

しかし、漫画やドラマじゃあるまいし、本気でそんな策でこれを乗り切ろうとしているこの場の人々が異星人に思える。

バカだ。

無理だ。

出来る訳ない!!


「ばれます!!無理です!!私イヤです!!」

「ばれない!!無理じゃない!!頼む!!」


健二さんはそう言うと、おもむろに膝をつき、私に向かって土下座した。

びっくりする。


…土下座。


私、土下座されている。

本気で。

人前で。

人生普通に生きていて、人に本気で土下座されることがあるなんて、考えたこともなかった。

声が出ない。


「知ってると思うけどウチ母子家庭なんだ。貧乏で、ちっぽけで、親戚からもずっと馬鹿にされてた。兄貴の結婚だって、どうせ籍だけ入れて祝儀ぶんどるだけだろうって、陰で言われてた」


そういえば、結婚式をするっていう話をしたとき、むこうのお母さんがひどく感動していたのを覚えている。


「母を笑いものにしたくない」


健二さんはより深く頭を下げた。


「勝手に女孕ませて、式すらまともにできなかった半端者の親だなんて言わせたくない。勝手な事言ってるとわかってる。ごめん!!でも、頼む!!」


必死なその姿に、この人の背負ってきた思いと母親への愛情を見た。

そしてきっと、それだけじゃない。

彼は兄も、馬鹿にされたくないと思っている。

そして義姉も。

生まれてくる、甥か姪も。

更に、困って経緯を見守っているスタッフの苦悩も背負っている。

祝いに来ている、会場の皆のことも。

すべてを背負って彼は、土下座しているのだ。

こんな私なんかに。



……バカは、……私だ。
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