恋愛ウエディング
情けなくなって、自分も膝をついた。

ゆっくりと。

絨毯の柔らかさが、慈悲に思えた。


「姉が…」


そう。

悪いのは彼じゃない。


「姉がごめんなさい」


安定期にも入っていないのに式を強行した、姉だ。

悪いのは、私の家族だ。

その事が、新しい家族に恥をかかせようとしている。

そして今、この人に恥をかかせている。

それは……残虐な罪だった。


目の前の人に土下座する。

深く。


「私のほうこそ、ごめんなさい…」


健二さんが絶句して顔をあげるのがわかった。

数秒の沈黙が、場を埋めた。

しんみりした空気が、…間を…、……埋めた……。


……が。


「話はつきましたか!?」


という強引なスタッフの声と腕が私達を立ち上がらせ引き剥がし、メイク、髪型、着替え、軽い打ち合わせ、を怒涛に済ませた後、私達は式場へドンと押されてしまった。

そして今こうしてケーキを前に、二人でナイフを握らされている。


…私、何やってんだろう。


覚悟は決めたものの、眩しすぎるライトとフラッシュに笑顔を作る顔の筋肉が疲労をはじめる。


「さあケーキ入刀です!!」


テンションの高い声が私達をせかした。

チョコレートで流暢に書かれているハッピーウエディングという文字を見ながら、私は自分を振り返る。
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