好きとごめんのその先に
彼と彼
「夕梨亜!」
「?」
戻って、奏多の家を過ぎたところで、誰かがわたしを呼ぶ声が聞こえた。
それに気付いたのと同時に、正面から速度を落とした黒い車。
「まだ学校に行ってなかったのか?」
「……」
運転席には、スーツを着た忠見さん。
ネクタイをきっちり締め、髪も整髪剤で固め、それを見る限り彼はこれから仕事に向かうよう。
「あんなに朝早く出て行ったのに、どうしてこんなところにいるんだ?」
「…別に何でもいいでしょ」
ドクっと胸をうつ質問に、そっけない言葉を返す。
飛び出しておきながら、まだこんな時間に1人で歩いている理由くらい、忠見さんは気付いているはず。
だけどこれ以上探ってこないのは、彼の大人の優しさなのかもしれない。
…もっともこの人は、わたしが家を早く出た理由の1人なんだけど。