好きとごめんのその先に
「…ねぇ。忠見さんは、お母さんに会えなくて寂しいと思ったことないの?」
今なら素直にきける気がして、時々思っていたことを口にした。
「さぁ。昔から母さんがいないことが当たり前だったから、寂しいとかはよく分からない。
実際に会えるのは数年に一度だけど、普段から父さんからよく話は聞いていたし、今では仕事関係で連絡をとることもある。
…だから、いない人だと思ったことはない」
彼も昔から、母親が傍にいない人生を歩んできた。
なのに寂しいとは思わないのは、それだけ愛されてきた証拠。
ただ生きているかどうかだけではない、それ以上の愛を受け取っているから。
「…そっか。そんな風に想われる忠見さんのお母さんも、きっといい母親なんだと思うよ。…それから、お父さんも」
それだけ言って、ゆっくり目を閉じた。
彼からの返事はない。
代わりに、大きな手が頭で2回、優しく弾んだ。
…なんだか、今日は調子が狂う…
でも少しだけ、…ほんの少しだけど、この人の隣でも、今晩はいつもより穏やかに眠れる気がする。