好きとごめんのその先に
ふわりと、奏多の匂いに包まれた。
オレンジ色の髪がわたしの頬をくすぐる。
「…そうだよ、俺、今日誕生日なんだよ…」
途端に弱々しくなった奏多の声。
「…っ、なのに何なんだ、こんな最悪な日…」
か細い声が、ダイレクトに耳に入ってくる。
…奏多、やっぱり無理してるんだ…
「ごめんね…」
腕を背中に回して、ぎゅっと力を込める。
奏多の鼻をすする音は、聞こえないふり。
「…俺、決めた」
「?」
「ゆりちゃんがちゃんと俺のところに戻ってくるまで、キスはしない」
「え…?」
「…これ、俺なりのケジメ」
そう言った後、今度はふっと笑う声が聞こえた。
「…待ってるから」
最後にそう言って、わたしから腕を解く。
微かな匂いと温度を残して、奏多は去って行った。