約束の大空 1 【第1幕、2幕完結】 ※ 約束の大空・2に続く

21.記憶の戻る日 - 舞 -




その朝、目が覚めて部屋から一歩外に出ると、
お世話になっている屯所内は騒々しかった。


隊士たちは、何人かで固まって話しながら
隣の邸の方へと駆け出していく。


よそ者の私が声をかけやすい
雰囲気でもなく一人、
隣の邸の方へと歩いていく。


あそこには、確か瑠花さんと、
以前助けてくれた芹沢さんたちがいるはず……。

短い間だけど以前、お世話になってた時期に
住まわせて貰った邸だから。


花桜さんでも誘って二人に会いに行こう。



とはいっても、一人で知らないこの場所を歩くのは
ちょっと勇気がいるのでまずは、
いつもはこの時間帯には元気に雑巾がけか、
掃除に勤しんでる花桜さんの姿を探す。



まずは廊下……。


その場所を覗き見ても花桜さんはいない。



そして道場の方にも顔を覗かせるものの
今日は道場の空気も重くて。


その重さと、今朝の慌ただしさから
何か起こったのだと感じたけれど
とても気軽に尋ねられる状態じゃなかった。


そのまま道場を後にして、
一人、隣の邸の方へと近づいていく。



「ここから先、行かない方がいい」


突然、聞きなれたか声が
私の足を止める。



「どうした?斎藤?」

「いえっ。
 加賀が来ましたので……」



えっ?

加賀が来ましたので……って。
私が来ちゃまずかったの?




「よしっ、長州の奴らに斬り殺された

 芹沢さんと、お梅さん。
 二人のご遺体を丁寧に運び出せ」




奥の方から、知らない隊士の声が
私に気になる言葉を紡ぎだす。





長州の奴らに切り殺された?




長州?



晋兄?義兄?


二人は……このことを知ってるの?



だけど……待って。
何故、長州なの?

長州はこの間、都から締め出されたはずなのに。




なんで?


どうして……この場所で長州の名前が出るの?



しかも……殺されたのは芹沢さんって、
さっきの人言ってた。



「あの……。
 何かあったんですか?」



恐る恐る、壬生浪士組の中で
一番交流が今のところある
目の前の斎藤さんに問いかける。



「昨夜、前川邸に押し入ったものに、
 芹沢さんとお梅さんが殺されたらしい。

 犯人は情報によると、長州藩の人らしいが実際のところは、
 俺にもわからない」


「あの……。

 今朝から、花桜さんの姿を邸内で
 見かけないのですが」


「山波は現在、行方不明。
 どうやら、その現場で居合わせて 犯人を殺害。

 山波にとっては初めての殺し。
 混乱して飛び出したらしいが見失った。

 今も山崎君が探しているはずだ」



えっ?


花桜さんが、
初めて人を殺したって?






身近な存在が人を殺した。



その言葉に、自分の背筋が
凍りつく想いがする。



「あっ……、瑠花さんは?」

「岩倉は部屋に閉じこもって出てこない。
 まぁ、あんなことがあった後だ。

岩倉自身も、山波と共にいた。
 山波が人を殺した瞬間に居合わせたんだ」



さらりと、淡々と告げられた言葉。



「……平気で人の命を散らすんだ……。
 この世界は……」

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